植物から精油を取り出す方法は、一つではありません。植物の種類や抽出する部位、香り成分の性質に合わせて方法を選ぶことで、わずかな精油を効率よく、安定して得られるように工夫されています。
抽出法が変わると、同じ植物から得たものでも成分や香りが変わることがあります。精油の名前だけでなく、「どの部位から、どの方法で取り出されたか」まで結びつけると、それぞれの特徴が見えやすくなります。
精油は植物からわずかしか得られない
精油は、植物の花、葉、果皮、果実、心材、根、種子、樹脂などから得られます。ただし、植物に含まれる量はごくわずかです。
精油1kgを得るために必要な原料量の例は、次のとおりです。
- ラベンダー:花穂100~200kg
- ローズ:花3~5t
これらはAEAJの調査による目安で、実際の量は産地や生産条件などによって異なります。大量の植物から少量しか得られないからこそ、精油は植物の香りが凝縮された貴重な素材です。
植物と抽出部位に合う方法を選ぶ
精油の抽出法は、植物の種類や抽出する部位に合わせて選ばれます。果皮を搾る方法が適する植物もあれば、蒸気で香り成分を揮発させる方法や、溶剤に香り成分を溶かし出す方法が適する植物もあります。
抽出法を選ぶときに関係するのは、取り出しやすさだけではありません。熱を加えるか、どのような性質を利用するかによって、得られる成分や香りも変わります。同じ植物でも、抽出法が異なれば同じ香り・同じ成分構成になるとは限りません。
代表的な5つの抽出法
水蒸気蒸留法
水蒸気蒸留法は、蒸気の熱で植物の香り成分を揮発させ、冷却して液体に戻す方法です。液体は水と精油の層に分かれ、精油とともに芳香蒸留水も得られます。精油の抽出によく用いられる一方、熱によって香りや成分が損なわれる場合があります。
圧搾法
圧搾法は、主にレモンやスイートオレンジなど、かんきつ類の果皮から精油を搾り取る方法です。熱を加えないため自然に近い香りや色が得られますが、搾りかすなどが混入することがあり、他の抽出法で得た精油より劣化しやすい特徴があります。低温圧搾、コールドプレスとも呼ばれます。
揮発性有機溶剤抽出法
揮発性有機溶剤抽出法は、石油エーテルやヘキサンなどの有機溶剤に香り成分を溶かし出す方法です。ローズやジャスミンなど、繊細な花の香りを得るのに適しています。途中でコンクリートを作り、エタノールで処理してアブソリュートを得ます。樹脂などから得られるものはレジノイドと呼ばれます。
油脂吸着法
油脂吸着法は、精油が油脂になじみやすい性質を利用する伝統的な方法です。香り成分を吸着した油脂はポマードと呼ばれ、そこからエタノールで香り成分を取り出してアブソリュートを得ます。非常に手間がかかるため、現在はあまり行われていません。
超臨界流体抽出法
超臨界流体抽出法は、主に二酸化炭素に熱と圧力を加え、気体と液体の中間のような超臨界状態にして香り成分を取り込む方法です。低温で処理でき、植物そのものに近い香りが得られますが、高価な装置が必要なため、精油の抽出法としてはあまり一般的ではありません。
抽出法によって得られるもの 🟣専門
抽出法によっては、精油だけでなく、途中生成物や別の名称をもつ芳香物質が得られます。名称を単独で覚えるのではなく、どの工程で得られるかを結びつけることが大切です。
| 抽出法 | 主な対象 | 熱・温度 | 原理 | 抽出過程で得られるもの | 最終的に得られるもの |
|---|---|---|---|---|---|
| 水蒸気蒸留法 | 多くの植物。花・葉などの軟らかい部位から、木材・根などの硬い部位まで | 蒸気の熱を加える | 香り成分を揮発させ、冷却して水と精油に分ける | ― | 精油、芳香蒸留水 |
| 圧搾法 | 主にかんきつ類の果皮 | 熱を加えない | 果皮を搾り、遠心法で水分と精油を分ける | ― | 精油 |
| 揮発性有機溶剤抽出法 | ローズ・ジャスミンなどの繊細な花、樹脂など | 常温で溶剤へ溶かし出す | 有機溶剤に香り成分などを溶かし、溶剤やエタノールを取り除く | 花などではコンクリート | 花などではアブソリュート、樹脂などではレジノイド |
| 油脂吸着法 | ローズ・ジャスミンなどの花 | 冷浸法は常温、温浸法は60~70℃ | 香り成分を油脂へ吸着させ、エタノールで取り出す | ポマード | アブソリュート |
| 超臨界流体抽出法 | 芳香植物 | 低温。専門では30~40℃程度 | 超臨界状態のCO₂に香り成分を取り込ませ、圧力を戻してCO₂を気化させる | ― | エキストラクト、レジノイド |
「熱を使うか」「何へ香り成分を移すか」「途中生成物があるか」を横に見比べると、各方法の違いがつかみやすくなります。水蒸気蒸留法は蒸気、圧搾法は機械的な力、揮発性有機溶剤抽出法は有機溶剤、油脂吸着法は油脂、超臨界流体抽出法は超臨界状態のCO₂を利用します。
エタノール処理
揮発性有機溶剤抽出法と油脂吸着法では、途中でエタノール処理を行います。
コンクリートまたはポマードにエタノールを加えて温め、芳香成分を溶かし出します。その後、エタノールを取り除くとアブソリュートが得られます。コンクリートとポマードは異なる方法で作られますが、どちらもエタノール処理を経てアブソリュートにつながります。
抽出法は精油選びの手掛かりになる 🟣専門
抽出法が異なると、同じ植物でも含まれる成分が変わります。たとえば、かんきつ類の果皮を搾る圧搾法では植物由来の成分が多く移行する一方、水蒸気蒸留法では一部の成分が取り除かれます。
この違いを踏まえ、たとえばかんきつ類の精油では、一般的にトリートメントには水蒸気蒸留法で得た精油の方が向いている傾向があります。このように、植物名だけで判断するのではなく、抽出法を確かめることも精油選びの手掛かりになります。
抽出法による色や成分の違いは、ユズ精油の比較例を扱う別記事で詳しく見ていきます。
まとめ
- 精油は植物からごくわずかしか得られないため、効率よく安定して取り出す方法が発達してきました。
- 抽出法は、植物の種類や抽出部位に合わせて選ばれます。
- 代表的な抽出法には、水蒸気蒸留法、圧搾法、揮発性有機溶剤抽出法、油脂吸着法、超臨界流体抽出法があります。
- 同じ植物でも、抽出法が変わると得られる成分や香りが変わることがあります。
- 🟣専門抽出過程と生成物の名称を結びつけ、抽出法を精油選びの手掛かりにします。