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同じユズ果皮でも何が変わる?|研究から見る抽出法と成分組成

同じユズの果皮でも、取り出す方法が変わると、得られる精油や抽出物の成分組成は同じになりません。なぜ違いが生まれるのでしょうか。

この記事では、複数の抽出法を同一研究内で比較したデータを中心に、抽出法が「植物からどのような成分を取り出すか」に関わることを学びます。どの方法が最も優れているかを決めるための比較ではありません。

⚪参考この記事は試験範囲外の発展的なケーススタディです。先に精油の抽出法と、各抽出法の基本を学んでから読むことを想定しています。研究値は、その研究で使われた試料・抽出条件・分析条件に限られた結果であり、すべてのユズ精油に共通する規格値ではありません。

一つの研究で複数の抽出法を比べる ⚪参考

Hoshinoらの2006年研究では、福岡県で栽培され、2005年10月に緑色の未熟な状態で収穫されたユズの果皮を使い、次の方法で得た油または抽出物をGC-MSで分析しました。

果皮は表面を削り取り、約−20℃で保存した後、抽出直前に細かく切っています。溶剤抽出は4時間、水蒸気蒸留は24時間、圧搾は3日間と報告されています。超臨界CO₂抽出は約60℃、10・20・30MPaで検討され、20MPaの条件で抽出物の収率が最も高くなりました。

方法ごとに操作時間や装置条件が異なり、従来法の詳しい操作や反復数も十分には示されていません。そのため、以下の結果は「この研究条件で得られた抽出物の違い」として読みます。

成分群の割合に表れた違い ⚪参考

2006年研究が報告した3つの成分群を、Estudiaで比較表に再構成すると次のようになります。

抽出法モノテルペンセスキテルペン含酸素化合物
エタノール抽出91.5%微量1.24%
ヘキサン抽出95.1%微量2.99%
圧搾94.5%3.37%1.07%
水蒸気蒸留91.2%4.03%3.02%
超臨界CO₂抽出79.8%4.42%13.5%

出典:Hoshino et al.(2006)のTable 2をもとにEstudiaが再構成。表は論文が示した3成分群のみを掲載しているため、行の合計が100%にならない場合があります。

この研究では、圧搾油と水蒸気蒸留油で成分群の割合が異なり、超臨界CO₂抽出物では、ほかの方法による抽出物よりモノテルペンの割合が低く、含酸素化合物の割合が高い結果でした。つまり、同じユズ果皮を出発点にしても、何に溶けやすいか、揮発しやすいかといった成分の性質と抽出条件によって、得られる組成が変わり得ます。

ただし、含酸素化合物が多いことは、それだけで香りや製品の「品質が高い」ことを意味しません。目的とする香り、使用方法、収率、保存性など、品質を評価する観点は一つではないためです。

また、この表は各成分群が抽出物全体に占める割合です。原料果皮から各成分が何グラム得られたかを直接比較した表ではありません。「割合が高い」ことと「回収量が多い」ことも区別する必要があります。

抽出法の名前だけでは結果は決まらない ⚪参考

抽出結果を左右するのは、抽出法の種類だけではありません。

沢村らの1989年研究では、ユズの生鮮果皮や搾汁後の残滓を高圧CO₂で抽出しました。搾汁残滓は、細切したもの、粥状に磨砕したもの、冷凍後に解凍して細切したものに分けて検討されています。その結果、細切、磨砕、冷凍といった前処理の違いによって、果皮油の回収量が変わりました。

研究では、磨砕や冷凍によって果皮組織からペクチンが出て粘性が高まり、CO₂が試料と十分に接触しにくくなった可能性が考察されています。生鮮果皮から得た高圧CO₂抽出油と冷圧油の比較でも、すべての成分が同じ方向へ増減したわけではありませんでした。

なお、この研究の抽出条件は15℃・100kg/cm²で、論文自身が「厳密には超臨界近傍の液相域」と説明しています。現在の典型的な超臨界CO₂抽出条件と同一視せず、高圧CO₂を用いた一つの研究例として扱う必要があります。

この事例から分かるのは、抽出物の違いを「圧搾か、蒸留か、CO₂抽出か」という方法名だけで説明できないことです。少なくとも、次の条件を一緒に確かめる必要があります。

  • 果皮が生鮮か、搾汁後の残滓か
  • 成熟度や産地
  • 冷凍などの保存履歴
  • 細切・磨砕などの前処理
  • 抽出温度、圧力、時間
  • 分析方法と定量方法

多く含まれる成分だけで香りは決まらない ⚪参考

GC-MSは、抽出物にどの成分が含まれ、どの程度の割合を占めるかを調べる手段です。しかし、成分の含有量だけで、鼻で感じる香りへの寄与をそのまま判断することはできません。

Lan-Phiらの2009年研究では、6品種のユズから得た冷圧果皮油を、GC-OとAEDAで調べました。GC-Oは、GCで分離された成分を人が実際に嗅いで評価する方法です。AEDAでは試料を段階的に希釈し、どの段階まで香りを検出できるかをFD factorとして評価します。

この研究では、リモネン、α-ピネン、α-フェランドレン、β-フェランドレン、ミルセン、γ-テルピネン、(E)-β-ファルネセン、リナロールが、高いFD値を示す成分として挙げられました。主要成分だけでなく、リナロールや(E)-β-ファルネセンなども香気活性成分として評価されています。

さらに、検出された成分の重量とFD値の相関は、6品種を合わせて r = 0.286 でした。研究では弱い正の相関と評価されています。量が多い成分が香りへ寄与する場合はありますが、含有量だけで香気寄与の大きさを説明できるほど強い関係ではありませんでした。

2006年研究では超臨界CO₂抽出物にリナロールが比較的多く検出され、2009年研究では冷圧果皮油中のリナロールが香気活性成分として評価されています。しかし、これは別の試料と別の研究による結果です。両者を組み合わせて「超臨界CO₂抽出物の方がリナロールによって強く香る」と結論づけることはできません。

抽出後も組成は変化する ⚪参考

抽出直後の組成が、その後もそのまま保たれるとは限りません。

Kashiwagiらの2010年研究では、減圧下で水蒸気蒸留されたユズ果皮油を褐色瓶に入れ、25℃で12週間保存しました。この条件では、保存中にモノテルペン炭化水素やセスキテルペン炭化水素の割合が低下し、p-シメンや一部の含酸素化合物が増加しました。

これは25℃で行われた特定の保存実験の結果であり、すべての保管条件で同じ速さの変化が起こることを意味しません。それでも、分析値を読むときに「どの方法で抽出したか」だけでなく、「抽出後にどのように保存され、いつ分析されたか」も重要であることが分かります。

まとめ

  • 同じユズ果皮でも、抽出法が異なると、得られる精油・抽出物の成分群の割合は変わり得ます。
  • 2006年研究では、圧搾、水蒸気蒸留、溶剤抽出、超臨界CO₂抽出の間で、モノテルペン、セスキテルペン、含酸素化合物の割合が異なりました。
  • 抽出結果には、原料の成熟度、保存履歴、前処理、温度、圧力、時間なども関わります。
  • GC-MSで測る含有量と、GC-O・AEDAで評価する香気寄与は同じ指標ではありません。
  • 抽出後の保存条件と時間によっても組成は変化します。

抽出法は単なる製造工程ではなく、植物からどのような成分を、どのような割合で取り出すかを左右する条件の一つです。研究結果を比べるときは、方法名だけで優劣を決めず、原料・抽出・分析・保存の条件まで含めて読むことが大切です。

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参考文献

  1. Hoshino M, Tanaka M, Sasaki M, Goto M. Extraction of Essential Oil from Citrus junos Peel using Supercritical Carbon Dioxide. Proceedings of the 8th International Symposium on Supercritical Fluids. Kyoto, Japan; 5–8 November 2006. CD-ROM.
  2. Sawamura M, Kuriyama T, Li ZF, Kusunose H. Comparison of Peel Oil Components of Yuzu (Citrus junos Tanaka) Extracted by Supercritical Carbon Dioxide and Those of Traditional Ones. Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi. 1989;36(1):34–38.
  3. Lan-Phi NT, Shimamura T, Ukeda H, Sawamura M. Chemical and aroma profiles of yuzu (Citrus junos) peel oils of different cultivars. Food Chemistry. 2009;115(3):1042–1047. doi:10.1016/j.foodchem.2008.12.024.
  4. Kashiwagi T, Lan Phi NT, Sawamura M. Compositional Changes in Yuzu (Citrus junos) Steam-Distilled Oil and Effects of Antioxidants on Oil Quality during Storage. Food Science and Technology Research. 2010;16(1):51–58. doi:10.3136/fstr.16.51.
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